こんにちは むうさんです^^
私は、遠州流茶道の名取(なとり)、奥之伝を終了し、宗号をいただいております。
そんな私が、お茶をはじめるきっかけの一つが、茶の湯の歴史小説を読んだことからです。そのきっかけとなった歴史小説は、『利休にたずねよ 山本兼一』です。茶の湯を確立した大宗匠である千利休を描いたもので、直木賞を受賞した作品でもあります。
もう一冊は、『孤篷のひと 葉室麟』で、遠州流の流祖である小堀遠州が、豊臣の世から徳川の世になっていく寛永の時代に、お茶の第一人者としてどう生きたのかがわかる歴史の深みを感じさせてくれる作品です。
今回は、『利休にたずねよ 山本兼一』、『孤篷のひと 葉室麟』の茶の湯、茶道に関連する歴史小説のブックレビューです。
『利休にたずねよ 山本兼一』
『孤篷のひと 葉室麟』
利休にたずねよ 山本兼一
3つのキーワード
この本を読んだ時に、茶の湯がなんであるのか?千利休が何をない遂げようとしていたのかについて、しっかりと伝わってきました。
戦国の世が終わりつつあり、その次の時代に向けて千利休が目指していたものがなんだったのか、キーワードは『安寧』『美』『見立て』の3つです。
戦国の世にある安寧
”一期一会(いちごいちえ)”という言葉を聞いたことがあるかもしれません。今回が生涯で一度の出会いであると考えて、この一度きりの出会いを大切にする。という意味です。
戦国の世はまさに、その通りの世界でした。命が明日あるかわからない、人が死ぬのが当たり前の時代。
そんな時代に、茶室でお茶をいただくのは、そのような現世を一瞬忘れ『安寧』を感じることのできる時間だったのです。
千利休は、せめてお茶を飲んでいる時は、安寧を感じてほしい。できれば、本当に安寧の世になってほしいと願っていたのです。
茶室にある”にじり口”、その”にじり口”に入る前の”刀掛け”。
だれもが、”刀を置いて”、”頭を下げてかがんで”、しか入れない小さな入口と、茶室に入る前に刀をはずして置く”刀掛け”。そんな仕掛けも千利休の創意工夫です。
美が世の中を動かす
世の中は、美しいものを求めています。
戦国の世は、力で屈服させる時代でしたが、千利休は『美』によって世の中を動かそうとしていたのです。
千利休という巨人が創り出す新たな『美』が、世の中で価値を持っていきます。
その象徴的なお道具として、香合(香をいれておく小さな容器)がでてきます。気の遠くなる歳月をへ銀色に変じた緑釉の景色を持つ平たい壺で、千利休は香合に使っています。
その香合を通した、豊臣秀吉との美の対決など、この小説の骨格をなすのが千利休の『美』への考え方でした。
新しい美を生み出す見立て
『見立て』とは、本来は茶碗でつかっていないものを、茶碗として使ってみたり、花入れでないものを花入れとして見立てて使うことです。
そこには、新たな『美』を見出す力が求められます。
千利休の見立てにより、足利義政の東山文化から続いた台子のお茶道具ではなく、雑器とも呼ぶべきものに美を吹き込んでいます。
戦国武将との間で生き抜き散った
『利休にたずねよ 山本兼一』の中では、千利休が仕えた織田信長、豊臣秀吉、千利休が切腹する原因となった石段三成、弟子であり武将でもあった細川忠興、古田織部なども登場し、戦国時代に生きた千利休を浮かび上がらせています。
茶の湯に興味があり、お茶ってどういうものなんだろう本を読んでみたい、という方には、もっともおすすめできる本です。是非、チェックしてみてください。
『利休にたずねよ 山本兼一』
孤篷のひと 葉室麟
戦国時代の終わりと小堀遠州
小堀遠州は、1万石強の大名です。直接の千利休の弟子ではありませんが、千利休の後継者であった古田織部に師事していました。
二条城、仙洞御所などの庭を含めた普請奉行(建築責任者)でもありました。戦国時代が終わり徳川の世になり、江戸幕府の官僚の一人として、戦国時代に荒廃した京都などの復興も担っていたのです。
千利休が黒を好んだのに対して、小堀遠州は『綺麗さび』といわれるように白を好みました。上の写真でも白バックで写真を撮っているのは、そのためです。
お家元お好みのお茶も、『一弦の白』と白が名前についています。
戦国時代が終わって安寧は
豊臣の時代には、小堀遠州の父が豊臣秀長(秀吉の弟)につかえていました。その秀長の屋敷で千利休と会ったのが、二人の唯一の出会いだと言われています。
その後、秀長が亡くなり、その後継者であった秀保も亡くなり、石田三成との出会いなど、豊臣の世が終わっていく様が、小堀遠州の視点で描かれていくのが、歴史を知る上で意外と面白いのです。
そして、戦国時代が終わったことで、『安寧』の世が訪れることが期待されていましたが、大阪夏の陣、冬の陣が始まり、師である古田織部は豊臣側と通じているという疑いを掛けられて切腹して亡くなります。
師である古田織部と『安寧』についてのやり取りが描かれています。その中で小堀遠州が、「自ら心鎮まることかと存じます」と答えるのに対して、古田織部が「足らぬな」と答えた後、自らの考えを述べます。
小堀遠州も安寧を求めた
世の中は、島原の乱とその後の農民の一揆が起こる状況でした。
茶室で、江戸幕府の官僚との間で、政(まつりごと)とは、上様と民とのことについて意見を述べ、さらに実際に遠州自身も自分の立場の中で安寧を実現しようとしていきます。
新しい徳川の世での、小堀遠州のお茶が、戦国時代の千利休や古田織部の影響を受けながらも大成していく様が描かれています。その時代を描いた歴史小説として読んでも面白い内容で、おすすめです。是非チェックしてみてください。
『孤篷のひと 葉室麟』
千利休と小堀遠州
戦国時代から豊臣の世になるまでの千利休、豊臣の世から徳川の時代の変わり目の小堀遠州。
二人の茶人の目を通した歴史小説は、単なる戦(いくさ)小説、陣取り合戦の小説とは異なっていて、非常に面白く読めました。
『利休にたずねよ 山本兼一』『孤篷のひと 葉室麟』の2冊はおすすめです。是非チェックしてみてください。
『利休にたずねよ 山本兼一』
『孤篷のひと 葉室麟』